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岐阜から富山県、石川県にゆく時に、東海北陸自動車道のドライブは楽しみである。山々が素晴らしい。深山を疾走しているという快感が得られる。この自動車道によって、秘境とも言うべき、白川郷や五箇山へ簡単にアクセスできる。これらの村落は険しい谷の深山にあって、むかし普通の車道を越えてゆくだけでもかなり時間と手間がかかった。自動車でさえも、こんなに時間がかかるのであるから、明治時代や江戸時代などは、人々はどのようにアクセスしたのか。まさしく人里離れた秘境というべき地域である。
江戸時代の飛騨の里はどのような地域であったのか、いろいろと想像をしてしまう。最近、中里介山『大菩薩峠』を読んでみた。長大な小説で読み切るのに時間がかかる。この小説の楽しみの一つは、飛騨の情景が上手に描かれていることだ。自分も飛騨や美濃や尾張の国を旅しているような気がする。そして、旅籠に泊まったり、籠に乗ったりと、その当時の旅情緒が楽しめるのだ。
この小説では、白川郷を平家の落ち武者の里であると述べている。そして外敵の侵入を受けることなくて、桃源郷のような地域であると述べている。本当に桃源郷なのか、冬の豪雪地帯で農業の生産性もさほど高くないだろうと思われる。裕福な地域とは思えないのだが。本当に桃源郷であったのか、人々は仲良く平和に暮らしていたのか、それは小説だけの世界かもしれない。
東海北陸自動車道であるが、北にゆくほど二車線の対面通行が増えてくる。対面通行はまだ運転に緊張する。今は4車線化の工事が進んでいるが、まだ郡上のあたりまでである。これが前線が4車線になると運転もけっこう気楽になるのだが、いつ頃に全線が4車線かになるのだろうか。
自分としては複雑な気持ちをいだいている。白川郷や高山市や五箇山などの秘境は人の滅多に訪れない、秘境という点が魅力だったのだ。ところが最近は各地の観光地化で、外国人観光客の数も増えている。日本の秘境の急速な国際化、世俗化が進んでいる。地域の人々も農業をするよりも、土産物店や民宿を経営する方がお金になる。国際化、観光化、世俗化は人々は歓迎されている。これからどのように進むのか。
飛騨の世俗化と述べたが、もっとも、いまだにまだまだ手つかずの自然が残っている。まだまだ秘境を楽しむことはできる。
さて、この地に住む人々の生活を理解するキーワードは、豪雪、蚕、孤立した山村であろうか。